国際英語学科学科ニュース

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国際英語学科教員の著書『ヘミングウェイの五感』出版!

2024.05.10 英語系

国際英語学科の教員、戸田慧先生の著書、『ヘミングウェイの五感』(松籟社)が出版されました。本書では『老人と海』で知られるアメリカを代表する作家アーネスト・ヘミングウェイの初期から晩年までの主要作品を、食べ物の味や音楽、匂いなど五感にまつわる表現から読み解きます。

たとえば『誰がために鐘は鳴る』という小説では、主人公ジョーダンはスペイン市民戦争に参加し、橋の爆破という危険な作戦に携わりますが、作戦に消極的なパブロという男を臆病だと軽蔑し、パブロが近づいてくると「焚火の煙や人間の匂い、煙草、赤ワイン、そして真鍮のような淀んだ体の匂い」を感じ、そばにいた恋人のマリアの手の「粗い石鹸と新鮮な水の匂い」を嗅ぎます。彼女の石鹸の匂いでパブロの悪臭を「消臭」するような振る舞いは、ジョーダンが抱くパブロへの嫌悪やマリアへの愛情を間接的に表現しています。

戸田先生からのメッセージ

小説を読んでいて、食べ物の味、雨の冷たさ、街のざわめき、草花の匂いを感じたことはありますか?ヘミングウェイといえば、感傷を排した無駄のない「ハード・ボイルド」な文体が有名ですが、実は主人公が好む匂いや味、音楽を通じて、表面的には描かれない心の葛藤や感情が表現されています。ヘミングウェイは「もしも作家が自分が書こうとしていることをよく知っており、また十分に正確に書いているのであれば、作家と読者が知っていることを省略することで、そのことを書いた場合と同じだけの効果を上げることができる。氷山の動きの持つ威厳は、水面上にあるわずか八分の一によってもたらされるのだ」と書き残していますが、主人公たちがどんな匂いや音、味や感触を感じ、それらにどう反応したのかを読み解くことは、まさに水面下に隠された見えざる物語を見つけることだといえるでしょう。
この本を通じて、文学をじっくり読み、解釈する楽しさを伝えることができれば嬉しいです。