「英文法」という三文字を見ただけで拒絶反応を示す人は少なくありません。また、英文法を学ぶことの必要性を軽視したり否定したりする人もいます。しかし、英文法に関する正確な知識なくして英語を話したり書いたりすることが本当に可能でしょうか。単語を無秩序に並べただけで、自由自在に意思疎通ができるのでしょうか。
今回の授業紹介では、「英文法Ⅰ」をご紹介します。この授業では、英語の文構造、文法事項、慣用表現などを含む例文や文章に習熟することにより、実践的な英語のコミュニケーション能力の育成をめざしています。
第二言語を学習する過程においては、母語の獲得とは異なる要件を満たす必要があります。そこで、言語を操る能力を方程式のかたちで単純化してみましょう。
F(言語力)=a(文法知識)× b(語彙力)× c(インプット&アウトプット)× d(語用論的知識)
a~dの各ファクターを簡単に説明すると以下のようになります。
a(文法知識)
文法知識は家の構造になぞらえると基礎に相当します。基礎が不安定だと家全体がぐらついていつ崩れ落ちるか分からないので怖くて住めません。文法規則は道路交通法と同じくルールの数は有限です。規則をすべてマスターすれば安心して運転できるのです。
英語の文構造は、いわゆる5文型に存在文を加えた6通りに集約できます。それゆえ、英語は構造上とてもシンプルな言語であると言えます。従って、一見複雑に思える構造の文も、修飾語を取り除けば、これら6通りの文型の中のいずれかに該当します。
問1 次の文の主語と動詞にアンダーラインを引き、修飾語をカッコで囲んで下さい。
Damage caused by landslides is covered by the standard insurance policy.
正解
Damage (caused by landslides) is covered (by the standard insurance policy).
この文は受け身(受動態)ですが、S+V+C[主語+be動詞+補語]の文構造です。causedもcoveredもどちらも他動詞の過去分詞です。ただし、causedが主語を形容する修飾語の役割を果たしているのに対して、coveredは主語の補語でありこの文の述部を成しています。従って、「地滑りが原因の損害については、標準の保険の補償範囲内である。」という意味になります。
b(語彙力)
未知語の意味を文脈から推測するには限界があります。単語の意味を大まかにあるいは正確に理解できなければ、聞いても読んでも文章の内容を的確に把握できません。従って、知るべき単語の数はThe more, the betterです。
ただし、英検とTOEICでは頻出語の種類が異なります。まずは、英検対策として一般的な語彙を増やしましょう。英検2級はTOEIC500点程度ですので、英検2級に合格したら一挙にTOEICに切り替えて600点以上を目指しましょう。そのためには、未知語に遭遇するたびにその意味を調べてスマホかノートに必ず保存して下さい。単語の意味を覚える際は、その単語が使用される文脈や状況を連想(視覚化)しながら何度も暗唱して下さい。
問2 次の5つの語句を和訳して下さい。
(1) aging society, (2) fatal disease, (3) fossil fuel, (4) nuclear power, (5) quarantine
正解
(1)高齢化社会, (2)不治の病, (3)化石燃料, (4)核兵器保有国, (5)検疫
c(インプット・アウトプット)
英語を実際に聞く、読む、話す、書く時間をできるだけ増やして下さい。教科書、雑誌、インターネット上の記事やSNS、各種英語試験の過去問題集など、関心のあるトピックについて英語で書かれた文章を聞いたり読んだりする機会を増やして下さい。文章の内容を理解したら、本文全体を何度も朗読して下さい。
話したり書いたりする訓練は相手が居なくてもできます。日常生活において頭に浮かんだことを英語に訳して実際に口に出したりノートに書いたりして下さい。その際に、自分では思い付かない単語や文型が必要になるはずです。それ(ら)を必ず和英辞典で調べて保存して下さい。
問3 「私は猫舌です。」を英語で表現して下さい。
正解
「猫舌」を直訳するとa cat's tongueとなりますが、それでは「猫の舌」という口腔内の部位を指すことになるのでI'm a cat's tongue.はナンセンスです。「猫舌」とは「熱い食べ物や飲み物は苦手」という意味ですので、それを5文型または存在文を用いて表現すれば良いのです。
I don't like very hot food or drink.
I cannot eat very hot food or drink.
もし、too~to...構文を使うことができれば、This food is too hot (for me) (to eat).と言い換えることもできます。
d(語用論的知識)
ことばを適切に使うためには、「伝えたい内容」「コミュニケーション場面」「ことばの働き」の3つを同時に考慮して言語化する必要があります。それができれば自然な英語を使えるようになります。
問4 次の3つの条件を満たす英語表現を考えて下さい。
〇伝えたい内容=そろそろ帰りたい
〇コミュニケーション場面=友人とファミレスかカフェで談話中
〇ことばの働き=(a)提案または(b)主張
正解
(a) "Shall we?" これはShall we leave now?"の略文です。「そろそろ出ようか/帰ろうか?」の意味で、相手も含めての提案です。
(b) "I must be going."/"I (had) better go." 「お先に(失礼します)。」の意味で、自分の都合を述べています。
☆脈絡つまり話し相手との関係性や各場面での制約条件などに応じて、どのような表現が最も適切であるかをその都度判断する必要があります。
グローバル化の進展により国際共通語としての英語の実用性はますます高まる一方で、自動翻訳機の進歩により英語を学ぶ動機や必要性は薄れて行くはずです。つまり、わざわざ苦労して英語を学ばなくても、翻訳アプリを使えば外国語による日常会話において困ることはまずありません。
しかし、外国語の学習は、多様な考え方を涵養するだけでなく、豊かな人間性や異文化に対する寛容性をはぐくみます。それゆえ、ITやAIがいくら進歩しても、第二言語を学んだ、特に英語を使える人財に対する評価やリスペクトが衰えることは決してないと思います。そして、母語についても当てはまりますが、もし文法的に正しい英語を使うことができれば、それは教養の証とみなされ品格を備えた人物であるとみなされるのではないでしょうか。
最後に、前期に「英文法Ⅰ」を履修した5名の学生に、授業の感想を聞きました。
英文法を楽しく学んで、英語力をUP!
F.Y.さん
英文法の授業を通して、改めて英語の基礎の大切さが分かりました。英語の文章も、分けて考えてみればいろんなルールがあることが分かり、できるようになるたびにとても嬉しいです。英語の細かい基礎ができるようになるといろんな文章を自分で作れるようになると先生がおっしゃったので、これからももっと勉強したいと思いました。そして、この授業では波多野先生自身の体験談や海外に行った時の話が聞けてとても楽しかったです。
U.H.さん
英文法の授業では、私たちがつい飛ばしてしまいがちな簡単な基礎の文法を学習しました。中学校でほとんど習ってしまうような文法だからこそ軽視していましたが、振り返ると理解出来ていなかったところがまだ沢山あったので、深い理解をする機会になった教科でした。しかし、波多野先生の英文法は、基礎だけでなく、ネイティブがよく使う表現や自然な日本語訳の仕方、一緒なようで実は異なるニュアンスを持つ表現など幅広く、深い知識を学ぶ機会にもなりました。
I.M.さん
私は「英文法Ⅰ」の授業を通して、基礎的な文法の使い方を以前より理解できるようになりました。私は特に接続詞が苦手でしたが、「等位接続詞」と「従属接続詞」の2通りに分けられることを知り、いくつかの応用例文と解説を通して理解を深めることが出来ました。また、授業では毎時間ペアと相談し合う時間があり、様々な考え方を知りながら学ぶ事が出来て楽しかったです。
K.R.さん
私が面白いと思ったことは、豆知識やプラス情報を知れることです。テキストの内容の説明はもちろん、それに加えて、文化なども教えていただきました。その中でも、チップについての説明が最も印象に残っています。私は元々どの程度チップを置いておけば良いのか知りませんでしたが、この科目を通して知ることができました。
S.S.さん
先生が英文法の説明をする時に、その場合に使える他の単語も教えてくださるので、ほかの英語の講義の時にも役に立っています。先生がオヤジギャグを言ってくれるのでとても楽しく授業を受けることが出来ました。Hurry up, and you can〜(急いで、そうすればあなたは〜できる)など、新しい文法が出てきた時、日常会話で使えそうだと思い、もっと日常会話について知りたくなりました。