人文学入門は、国際英語学科と日本文化学科の1年生が一堂に集う、両学科教員によるオムニバス授業です。身近な動物やアニメキャラクター、郷土文化などを通して、人文学という学問の内容と方法を理解していきます。
「アンパンと正義」の授業では、多くの人が幼い頃に親しんだ「アンパンマン(実は、最初はあんぱんまん)」を通して考えました。
「アンパンマン」と聞くと、バイキンマンやドキンちゃんを同時に思い浮かべる方も少なくないでしょう。
けれど、最初の絵本『あんぱんまん』(1973)には、バイキンマンやドキンちゃんは登場しません。「あんぱんまん」は、アンパンチを繰り出すこともなく、自らの顔を差し出し、食べてもらうことで、飢えに苦しんでいる旅人や道に迷った子どもを助けていきます。この行為は、飢えがいちばん辛かったという作者のやなせたかしさん自身の戦争体験に根ざしています。また、作者のやなせさんが、当初はバイキンマンのような仇役をつくりたくないと考えていたという逸話も残っています。
やなせさんは、「正義」について「けっしてかっこいいものではないし、そしてそのためにかならず自分も深く傷つくもの」と『あんぱんまん』 のあとがきで語っています。また、『わたしが正義について語るなら』(2013) という本では、 「正義でいばっているやつは嘘くさい」とも書いています。
ともすれば、自分の「正義」のみを振りかざして、他者を攻撃したり、排斥したりといった出来事が目立つ昨今だけに、今一度「正義」を疑い、「正義」について共に考えたいと考えてこの授業を行いました。
受講生のみなさんの感想の一端をご紹介します。
○今日の講義を通して、「正義」について考えた。アニメやマンガ、日常生活の中では、「正義は勝つ」とよく言われる。果たして、「正義」は、何に勝つのだろう。その対象は、自分にとって不利益な人、嫌いな人かもしれない。
○「正義」を振りかざすとそれは悪になると聞いたことがあります。一方にとっての「正義」は、もう一方にとっても「正義」であるかは分からないし、「正義」の押しつけや強要も方法によっては「正義」ではなくなると思います。
○誰かにとっては紛れもない「正義」であることが、実は見えない誰かを傷つけていることだってあるかもしれません。物事には何でも裏と表がありますが、「正義」も例外ではないんだということを自覚しなければならないと思います。
○私は、最初にアメリカのウエスタン(西部劇)を思い浮かべました。先住民を敵にして戦っていくという「正義」を今の時代になって考えると、対立するものをつくって勝つことで、仲間と自分以外を分けたかったのか、人間はそういう考えを持っているけれど、そうではなくて、アンパンマンのような優しさを持つことなんだと思いました。
○私は、「正義」とは、かっこよくてさわやかな感じがしていたのですが、あらためて「正義」とはどういうものか考えさせられました。私は「正義」とは、自分が犠牲になって誰かの笑顔のために頑張ることなのかなと思いました。それは少しかっこ悪い感じもするけれど、私はそういうことができる人がかっこいいなと思いました。