日本文化学科の学びでは、地域の伝統文化に目を向け、その価値と、伝統文化をとりまく状況、次代に伝えていくために何ができるかを考えています。 人文学入門の授業では、神楽に着目し、国際英語学科のみなさんと共に考え、提言をレポートにまとめました。 その一端にふれながら、私たちの大切な地域文化をいかに守り伝えていくかについて考えたいと思います。
愛媛から広島に来て、初めて神楽を見たというAさんは、次のように書いています。
第一部は舞台から遠い席に座り、全体の動きを見た。華やかに響く太鼓と笛の音。軽やかで美しい舞い。迫力があり、夢中になって、食い入るように見た。その後の第二部は最前列で神楽を見た。演者の息づかいが聞こえてきそうなほど舞台と距離が近く、緊迫感と熱気を感じた、気持ちが高ぶり、涙がこぼれた。広島に来て本当によかった。何回でも見に行きたい、と思わせてくれる公演で、私はこの日、神楽が好きになった。周りには、目を輝かせながら神楽を見るおばあさん。太鼓の動きに合わせて嬉しそうに手を叩くおじいさん。顔を見合わせ、微笑み合う親子。ああ、神楽にはこんなに大きな力があるのだと実感し、次代に繋げていかなくてはもったいないと強く思った。
こう語るAさんは、「様々な人に神楽を見てもらうことが重要」とし、「神楽を知っている私たちが、多くの人に神楽の魅力を語」り、SNSでの情報発信をしていくことも効果的だとしています。さらに「商店街や駅の床絵、壁絵を神楽の絵にすると観光客にアピールできる」と提案しています。
学校での文化教育の大切さについて述べるBさんは、授業で神楽を扱うこと、クラブやサークルを開くこと、地域の文化センターと連携しての見学会や専門家の話を聴く会の開催を提言し、その上で次のように言います。
いちばん大事なのは、人に伝える前に、私たち一人ひとりが「神楽」を愛することだ。なぜなら、人間は自分の好きな物事に対して十分な関心を持ち、それがなくならないように守るからだ。自発的に何かのイベントでチラシや資料を配付したりして積極的に活動する。自分が十分理解した上で、友達を誘って一緒に「神楽」を見たりして共に楽しんでいく。こうすれば、自分の周りに同じ「神楽」のファンがどんどん広がっていくだろう。
また、Cさんは、「神楽を伝承していくためには、本来の形にとらわれすぎないことが重要」とし、次のように書いています。
例えば、和太鼓や三味線は現在、ロックと融合させた演奏も行われている。実際に注目を集めて熱い盛り上がりを見せている。神楽にも、若い世代が興味を持つような魅せ方をしたり、機会をつくったりする必要がある。私は、エンターテインメントと融合させることを提案する。衣装や音楽をより色彩鮮やかで華やかにしたり、新しい演目を作ったりなどがある。
日本文化学科には、神楽団に所属して活動している人たちもいます。Dさんは、若手の育成の大切さを述べ、機会を与えて「若手に挑戦させる」ことと共に「いろいろな角度から撮ったビデオを残すこと」の必要性について次のように書いています。
今まで舞っていた人の引退や団員不足で舞えなくなった演目を、口伝えだけでなく形に残すことが大切だと考えたからだ。一度やらなくなった演目を復活させることは難しい。ビデオに残すことで、復活させようとしたときに次の世代の人が見ることができる。
これは大学も積極的に関わるべきことだと感じています。Dさんは提言の結びに「若手の一員として、しっかりベテランの人に教えてもらえることを吸収したいと思う」と結んでいます。
同じく神楽団に所属して活動を続けているEさんは、女性の参画を次のように訴えています。
神楽は、女性でも舞えるようにすべきだ。私は、現在、神楽に携わっている。舞台上で横笛を吹いている。申し込んだ際に、「女だから」という理由で舞うのを断られた。人手不足が問題となっている昨今、性別に拘っている場合ではない。伝承を受け継ぐには次代に適合していく必要があるはずだ。
その上でEさんも、「私は次代へと受け継がれるように、自分にできることを一つずつ実行・提案していこうと思う」と力強く結んでいます。
広島の伝統文化への若い世代の思いを受け止め、日本文化学科でも、今、できることに一つ一つ丁寧に取り組んでいきたいと考えています。