6月27日、下関中央図書館長・西河内靖泰先生をお招きし、国際教養学会主催の読書会を開催しました。題材は、松谷みよ子の『ふたりのイーダ』。
作品の山場となる灯籠流しの場面について意見交流を深める中で、りつ子の「そででとうろうをかこい」という行為について、「見せたくないというりつ子の思い」、「生き残ったことへの自責の念」等の読み方が提示され、西河内先生から、「りつ子は直樹に見せたくないという思いで隠した」、「この作品では、いくつかの視点が重層的に重なっていく」というご指摘をいただきました。
また、先生は、イスの象徴するものを考えることが大切。イスの時間は、そこで止まっている。朝、元気に家を出た者が帰ってこないことの深い悲しみをとらえる必要がある。『ふたりのイーダ』の意味は、3.11を経験した今だからこそより深く理解できるのではないか、原爆文学という枠の中でのみとらえるべきではないとおっしゃいました。また、原爆を次代に伝えるための一つの在り方、自分事として若い人たちが考えるきっかけになる作品であるとも言われました。また、映画化された作品と原作との違いについて製作に携わられた立場から、興味深いお話をしてくださり、「この世界の片隅に」のクラウドファンディングの先駆けともなった作品であることもお教えくださいました。
参加者からは、「たくさんの人がなくなったと書くのではなく、個人の深い悲しみに焦点があてられていることに心を動かされる」、「曾祖母から聞いた話を思い出した。これまで避けていた原爆とも向き合わなければと思った」、「生き残った者の生き方について考えさせられる」、「文章から悲しみが伝わってくる、文章の力はすごい」「平和公園に咲く、復興の象徴としての夾竹桃の花を思い出した。きれいに咲く夏の花をこの夏も静かに眺め、そこで起こった出来事を思いたい」等の声が出されました。
いのちと平和について共に考える貴重な時間になりました。